2013年8月27日火曜日

日本ジャーナリスト会議『ジャーナリスト』で『蟹工船興亡史』が書評されました。

日本ジャーナリスト会議の機関紙『ジャーナリスト』第665号(2013年8月25日)の「本・BOOK・ほん」欄で『蟹工船興亡史』が書評されました。本書のほかにこの号では、斎藤貴男著『安倍改憲政権の正体』(岩波ブックレット)、早乙女勝元著『私の東京平和散歩』(新日本出版社)の2点が書評されています。
 「今日の水産業界のあり方」にも及ぶ著者・宇佐美昇三さんの取材手法を高く評価していただいています。


 「浮かぶ工場」の秘密と盛衰60年の歴史を追う
 評者:土井全二郎(海事ジャーナリスト)

 わが国北洋漁業の花形だったカニ母船式工船漁業の起伏に富んだ歴史をたどり、その全容解明に、元NHKディレクターが取り組んだ労作である。先にプロレタリア作家・小林多喜二の代表作『蟹工船』が、厳しい労働実態と生活実態であえぐ現代の若者の間で、リバイバルブームとなったことは記憶に新しい。本書はそうしたカニ工船内の、いわゆる「ブラック職場」を検証しつつ、カニ工船漁業が近代日本興隆期の経済を支える主要な産業となるまでの経緯を克明に追う。
 カニ工船は日本の漁業界が世界に先駆けて開発した「浮かぶ工場」だった。缶詰製造には「真水で原料カニをよく洗う必要」がある。だが真水は船では貴重品。そこでカニ缶詰は陸上の工場で作られていた。
 その常識を打ち破り、洋上の清浄な海水利用を思いつき、船上で迅速・効率的な処理を可能にした「コロンブスの卵」的発想はどこで、どうやって生まれたのか。他国との領海・漁区問題のしがらみや沿岸資源枯渇の懸念から解放され、公海上で大規模操業と缶詰の大量製造ができる重要な鍵ともなった。
 本書はその謎解きからスタートし、綿密な取材と精力的な資料の発掘により、カニ工船をめぐる歴史的な問題をひとつひとつ洗い直していく。その課程で従来通説の誤りや不正確な伝聞が数多く指摘され、今日の水産業界のあり方を問うものともなっている。
 その視点の確かさ、その取材手法に触れるだけでも得るところが多い。